DDSとPICによる周波数特性測定器(HW編)

DDSで正弦波を出力し、ログアンプでレベルを測定します。
そのデータをPICで液晶表示器に表示すると同時にパソコンに転送して、
パソコンのプログラムで周波数特性として表示、保存します。



【概要】
 市販キットのDDSユニットにPICを組み合わせた正弦波発信器と、ログアンプとPIC16F876を
使ったデシベル測定器を組み合わせて、10Hzから10MHzまでの範囲で周波数特性を測定
するための測定器を作ってみました。
これにパソコンをシリアルインターフェースで接続して、周波数特性をグラフ表示できる測定器
が完成します。
今回の製作のポイントは高性能なログアンプICが入手できたことです。このICは、90dBという
非常に広いダイナミックレンジと、500MHzという高周波まで測定できるという優れものです。


左図はセラミックフィルタの特性を測定しているところ。
シールド線で外部との接続をしますが、このシールド線を
長くすると測定器自体の周波数特性が悪化しますので
注意が必要です。




下図は本測定器で測定した例です。それぞれ拡大表示できます。














 汎用オペアンプLM662の周波数特性      455kHzセラミックフィルタの特性




 スイッチングフィルタMF5の周波数特性      MF5の立上がり特性


【機能と仕様】

 今回の周波数特性測定器の仕様は下記のようになっています。

 機能と仕様
 (1) 周波数特性測定(リモート)
   パソコンからリモート制御して、指定された周波数範囲を指定刻みで出力し、
   被測定装置の出力レベルを計測して対数グラフで表示する。
   
   測定周波数範囲  :10Hz 〜 10MHz を1Hz単位で指定可能
   測定周波数刻み  :1ディケードを何分割で測定するかを指定(最低1Hz単位)
   測定チャンネル数 :2チャンネル
   測定信号レベル  :-60dB 〜 20dB 分解能1024レベル

 (2) レベル変動特性測定(リモート)
   パソコンからリモート制御で指定した一定の周波数で被測定装置の出力レベル
   変動を長時間測定しグラフ表示する。電源投入などからの立上がり特性なども
   測定出来ます。

   測定周波数範囲  :10Hz 〜 10MHz で1Hz単位で指定可能
   出力レベル    : 約-45dB 〜 15dB ボリュームにより可変
   測定間隔時間   : 0.1秒、1秒、1分の3種類
   測定時間     :上記時間間隔で最大600サンプルまで
   測定チャンネル数 :2チャンネル
   測定信号レベル  :-60dB 〜 20dB 分解能1024レベル
  

 (3) 手動周波数出力とレベル測定
   ロータリーエンコーダの回転により周波数を設定し、液晶表示器によりレベル測定
   設定周波数範囲  :10Hz 〜 10MHz  1/100 刻みで設定
   出力レベル    : 約-45dB 〜 15dB ボリュームにより可変
   測定チャンネル数 :2チャンネル
   測定信号レベル  :-60dB 〜 20dB 分解能1024レベル


【全体構成】


 本周波数特性測定器の全体構成は下図のようになっています。全体は大きく、
正弦波出力ユニットと、信号レベル計測ユニットの2つのユニットに分かれています。




まず。正弦波出力ユニットは、市販キットのDDSユニットで正弦波を出力し、それを
高出力オペアンプで増幅して外部出力としています。出力レベル調整はボリューム
だけで行っています。(レベル切り替え回路も含んでいますが未使用です)

このDDSが出力する周波数設定制御にPICを使いますが、信号レベル測定ユニットの
PICを兼用して1個のPICで両方を制御しています。周波数設定は、手動かパソコン
からのリモートかのいずれかで周波数が可変できるようにしています。いずれの場合
にも出力している周波数を液晶表示器に常時表示します。

手動の時には、ロータリーエンコーダを使い回転方向により周波数がアップ/ダウンできる
ようにします。リモートの時には、パソコンとシリアルインターフェースで接続し、通信に
より自由に周波数が設定できるようにします。

もうひとつの信号レベル計測ユニットは、今回入手したログアンプICを2個使って2チャン
ネルのレベル測定を可能にしました。この出力をPIC16F876のA/D変換機能により
10ビット精度で測定し、dBデータに変換して液晶表示器にdB値で表示するとともに、
パソコンにシリアル通信で送信します。




【DDSユニット】

 正弦波を出力するDDSユニットは、心臓部はWellpine社のDDS LSI(TC170C030AF)が
使われています。組み立て後の外観は下図の写真のようになっています。


市販キットの組み立てですが、出力段の
フィルタを変更する必要があります。
またこれだけで200mA以上の電流を
必要とするので電源には余裕が必要です。


 このICの中身は、28ビットのアダーによる位相制御と10ビットの正弦波生成ROMから
構成されています。従って、18ビットで設定できる周波数までは、10ビットの最高精度の
正弦波が出力されるので、非常にきれいな波形が出力されます。
さらに基本クロックは最大70MHzまで動作保証され、外部からの周波数設定は26ビット
まで可能となっているので、2の28乗の約67.10886MHzのクロックを使えば、2の26乗
(約17MHz)まで1Hz単位で設定し出力することが出来ます。また、このときには1Hz単位
で2の18乗(約260kHz)まで10ビット精度の波形が出力されます。
しかし、実際の実用限界は出力レベル、波形のきれいさからして、2の22乗の4MHz程度
かと思われます。このときには6ビット精度の波形となっています。
今回はこれを10MHzまでの目一杯で使うことにしました。
この基本の周波数特性は下図のようになっています。


(この特性にはレベル測定部の特性も
含んでいます。
でもさすがに10MHzでは出力レベル
が低い。)

 このDDSユニットの出力周波数設定をPICから行う訳ですが、この具体的な制御方法は、
別ページにありますので、そちらを参考にして下さい。
 PICからは、下図のように、3ビットのデバイスアドレス、4ビットのコマンド、26ビットの周波数
設定の3つを、クロック信号と一緒にシリアルデータとして送り込みます。そして最後にストローブ
信号を出力すればしれがラッチされてコマンドとして機能します。このコマンドによって出力を出す
ことが出来ます。
これだけの制御だけですから、DDSの制御は比較的簡単です。







【ログアンプ】

 今回入手したログアンプ専用ICはアナログデバイス社が出しているログアンプシリーズの
中のひとつで、AD8307という高性能なICです。これ1個でDC-500MHzまでの信号を直接
デシベル値に比例した直流電圧として出力してくれるので、この出力を直接PICのA/Dコン
バータへの入力とすることが出来ます。

このAD8307の仕様概要は下記のようになっています。

  品  名   :AD8307
  測定範囲  :-75dB 〜 +17dB ダイナミックレンジ 92dB
  周波数範囲:DC 〜 500MHz
  電源電圧  :2.7V 〜 5.5V 約7.5mA
  直線性    :±1dB (25mV/dBで比例出力)
  オフセット  :約10dBの調整が可能(Interceptと呼ばれるパラメータ)
  用途     :アンテナ電力測定、受信強度測定、レーダーやソナー
           スペアナ、マルチメータ(AC測定)

AD8307の入力対出力の基本特性は下図のようになっていて、単純に入力のレベルの
デシベル値に比例した直流電圧が出力され、INT(Intercept)端子でオフセットの調整が出来
ます。     (アナログデバイス社データシートより)






 しかしこのログアンプをそのまま使ったのでは、オーディオ帯域の測定には信号レベル
が低過ぎますので、データシートに参考回路として掲載されている20dBのゲインダウンを
させた回路にして、-70 〜 10dBの実用帯域を、-50dB 〜 +30dBの測定範囲にして使
います。 この変更後の回路は下図のようになっています。
ログアンプの出力部にあるコンデンサ0.1μは、数10Hz以下の低い周波数まで測定した
いときには、数μFの大き目のものにする必要があります。そうしないと測定の度に値が変動
してしまいます。つまり波形の途中で測定してしまうことになるためで、これを避けるために、
大き目のコンデンサで積分してやる必要があります。
また入力部にある22pFのコンデンサはログアンプの応答周波数上限を決めますので
余り大きな値には出来ません。





この回路には推奨回路にさらに追加して、INT(Intercept)端子に加える電圧によって
Intercept(オフセット)が調整できるようにしています。
このログアンプを使うに当たり、DC出力は2.5Vを上限とすることにし、PICのA/D変換の
+Ref端子に2.5Vの基準電圧を入力して、0V〜2.5Vの範囲を10ビットフルで使えるよう
にします。
 こうすると直流電圧Vdc(Volt)から信号レベルLv(dB)への変換は、上図グラフのINT=4.0Vの
線を使うこととし、これを20dBシフトさせて見れば、出力が0Voltのときの信号レベルが-68dB、
出力が2.5Voltの時が27dBとなるので、結局次式で変換できることになります。

    Lv = (95/2.5)×Vdc − 68

これをPICのA/D変換値 Ad から求めるには、2.5Voltで10ビットフルの1023であることから、
下式のような簡単な式で求めることが出来ます。これをPICの中で浮動小数点数として
求めています。

    Lv = (95×Ad)/1024− 68 

このログアンプのアナログデバイス社の関連Webサイトは下記にあります。
AD8307のデータシートもここから入手できます。

  http://products.analog.com/products_html/list_gen_105_2_1.html



【周波数測定器全体回路】

この周波数特性測定器の全体回路は下図のようになっています。






電源回路は5V用と8V用の2種類を供給する必要がありますので、タップ付きの電源
トランスを使って、それぞれ半波整流回路で2種類の直流を作り出しています。
外部スイッチとしては、電源スイッチ、モード切替スイッチ、ロータリーエンコーダの3種類が
あります。電源スイッチは前面パネルにはスペースがもう無かったので背面に取り付け
ました。
 液晶表示器には輝度調整の可変抵抗が必要ですが、液晶表示器本体に直接取り付け
ました。また、バックライト付きの液晶表示器にして、電源から直接抵抗を介してバックライト
に電源供給しています。電流が数10mAと多いので470Ωを2個並列にしています。
正弦波出力ユニットの出力可変用のボリュームへの配線はクロストークで出力が漏れる
ので、シールド線を使います。
下図が、内部の全体です。小型ケースのためやや混み合っています。







【正弦波出力ユニット回路構成】

 正弦波出力ユニット部の回路は下図のようになっています。図中のDDSユニットは市販
のDDSキットを使い、出力フィルタ部を変更して、抵抗とコンデンサによるフィルタに変更
しています。コイルを使うと、寄生発振など不安定な動作をするので抵抗を使った方が
安定できれいな出力となります。
 フィルタ定数は、出力インピーダンスを、オーディオでは一般的な600Ωということにして、
8MHzのローパスフィルタに設定しています。
 このDDSユニットの出力を外部に設ける可変抵抗でレベルを自由に変更できるようにした
あと、高出力オペアンプで増幅して出力しています。このオペアンプは、出力電流が100mA
以上取れるので、低いインピーダンスの負荷も十分ドライブできます。このオペアンプ1個
だけで出力部を構成しています。
 ゲインは、オペアンプの出力が最大5Volt以上取れるように、約8倍に設定しています。
また、5Voltの出力を歪み無く増幅できるように、電源電圧を8Voltにしています。この
単電源でオペアンプを動作させています。従って大容量のコンデンサで出力の直流を
直接接続しないようにしています。
 またシステム全体の5Voltの電源もここで作り配布します。これはDDSユニットが
約250mAという大電流を必要とするためで、大型の1Aクラスの3端子レギュレータを使い
放熱板も付けます。





このユニットは基板で作成し、下図のように2階建てにしています。上側にあるのがDDSの
ユニットのキットです。下側には出力アンプと5V、8Vの3端子レギュレータ回路を実装して
います。







【レベル計測ユニット回路構成】

 レベル計測ユニット部の回路は下図のようになっています。PIC16F876を中心にして、
ログアンプが2回路、2.5Voltの基準電圧回路、RS232のインターフェースICなどが実装
されています。
PIC16F876の入出力ピンには下記のものを接続するようにしています。

  PORT A :ログアンプの2チャンネルのアナログ入力
       +Refに2.5Voltの基準電圧
  PORT B :液晶表示器(外部にコネクタで接続)
  PORT C :DDSユニットの制御出力
       ロータリーエンコーダの入力回路(コネクタで外部接続)
       手動/自動モード切替スイッチ回路( 〃  )

基準電圧には、最もよく使われている、LM336という基準電圧用のICを使います。
ちょうど2.5Vのものがあるのでそのまま使えます。微調整の端子がありますが、
使わないで、ログアンプのInteceptの調整で代用します。

RS232Cのインターフェース用ICはお決まりのものですので特に説明は不要でしょう。
ロータリーエンコーダの入力抵抗はプルダウンする必要があるので要注意です。

 

下図がレベル計測ユニットの基板で、PIC16F876を中心にしてログアンプを2個
、あとは外部接続コネクタを数個実装しています。






【その他外観・実装】

下記の写真はそれぞれ実装状況をしましたものです。


前面パネルの操作部です。小型のケース
に実装したため混み合っています。



内部の実装状態です。
正面のパネルに液晶表示器を両面接着テープ
で固定し、ユニットが2台中央に実装されています。
前面パネル右側の黒いものがロータリーエンコーダです。


背面パネル部です。電源トランスと電源スイッチが
見えます。平滑回路は電源トランスからダイオード
を空中配線しています。





回路図、パターン図のIVEX用ファイルは下記をダウンロードしてお使い下さい。
一括圧縮していますので解凍後 WinDraftまたはWinBoardでご覧下さい。

  ★正弦波出力ユニット基板回路図
  ★正弦波出力ユニットパターン図
  ★レベル計測ユニット回路図
  ★レベル計測ユニットパターン図




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