高音質USB DACの製作


【概要】

パソコンのUSBに接続して高音質の音楽を再生できるUSB DACを製作します。
MP3ファイルだけでなく、WAVファイルや、ハイレゾファイルの再生も可能になります。
電源はUSBからの供給で、設定も何も必要ありませんから、USBに接続するだけで、
メディアプレーヤなどで再生した音楽を高音質で聴くことができます。

【USB DACとは】

USB DACのUSBはみなさん既にご存じでしょうから説明は不要でしょう。
ではDACとは何なのでしょうか。DACはDigital to Analog Converterの略でD/Aコンバータ
とも言われます。つまりデジタル信号をアナログ信号に変換するものです。
CDに録音されている音楽や、MP3と呼ばれる音楽ファイルはすべてデジタル信号で
構成されています。これをパソコンで再生するとき、下図の下側のような構成でD/Aコンバータ
でアナログ信号に変換し、アンプで増幅して音として聴けるようにしています。
しかし、パソコンは音楽再生のためにだけ設計されているわけではないので、図に示した
ような多くの外乱要因があり、音楽再生用としては高性能とは言い難いものです。


しかし最近はパソコンで音楽を聴く方々が増え、インターネットで音楽データをダウンロード
することもすっかり一般的となってきました。
このため「パソコンでも高音質で音楽を聴きたい」という方が増え、これに応えるために
開発されたのがUSB DACです。
上図の上側のようにパソコンからUSB経由で送られてくるデジタルの音楽信号をUSB DACで
アナログ信号に変換し、外部のメインアンプやヘッドフォンに送り出します。
もちろん搭載されているD/Aコンバータは音楽再生に特化したものでハイグレードなものが
使われています。
今回はこのような目的で開発された専用ICを使ってUSB DACを製作してみます。
USB DACとしては初期のICですので、それほどハイスペックではありませんが、ワンチップで
動作し、しかもパソコンから直接聴く場合と比べたら各段に高音質の音楽を聴くことができます。

【全体構成と外観】

このUSB DACの全体構成は下図のようになっています。専用ICと発振器以外には
主な部品はありません。非常に簡単な構成でできています。
これでもUSBでパソコンに接続すれば高音質なステレオの音楽を聴くことができます。


今回製作したUSB DACの外観は下図のようになっています。



【PCM2704のピン配置と機能仕様】

ではここで使った専用IC「PCM2704」を見てみましょう。
このICのピン配置と機能仕様は下図のようになっています。図のようにこのICは44.1kHzの
サンプリングで16ビット分解能ですからCDと同じレベルです。
しかし、独自のクリスタル発振のクロックで動作していますので、CDよりクロック周波数のずれが
少ないですからよりクリアでノイズの少ない良い音で再生ができます。
電源はUSBのコネクタの電源を直接使うバスパワーか、別電源を供給するセルフパワーの
選択ができます。バスパワーの場合には5V供給になるので、内蔵のレギュレータで3.3Vを
生成して動作させています。
オーディオ出力はLチャネルとRチャネル独立で出力されますが、出力レベルとしては
12mWですからヘッドフォンレベルとなります。



さらにPCM2704の内部構成は下図のようになっています。
USBとの接続と通信はUSB通信制御部で行われ、HIDデバイスとしてUSBに接続した後、
フルスピードで音楽データが転送されます。
この転送されてくるデジタル音楽データをDACでアナログ信号に変換して外部にステレオ信号
として出力します。同時にS/PDIF形式での出力も行われています。
これらの制御を外部発振によるクロックで制御しています。クロック発振は外部に12MHzの
クリスタル発振子を接続すれば内蔵発振回路で発振させることができますが、より安定で正確な
発振回路とするため、外部発振器を使うこともできます。
電源制御部ではバスパワー、セルフパワーの切り替えと内蔵レギュレータによる定電圧出力
制御も行っています。
外部スイッチを接続して音量のアップダウン制御も行うことができるようになっています。
このようにUSB通信もオーディオ出力もすべて内蔵回路だけで実行されますので、外部から
何らかの制御をする必要がありません。外部回路を構成してUSBに接続するだけで動作します。




【回路設計と組み立て
データシートにある標準回路から作成した回路図が下図となります。
電源はUSBからのノイズを避けるため、L1のフィルタでノイズを低減してから3端子
レギュレータで3.3Vを生成してセルフパワーとして供給しています。
したがってPSELピンをGNDに接続しています。USB接続でR1はフルスピードとするための
抵抗で、R2とR3は保護用です。R5は抵抗ではなくジャンパでアナログGND(大き目の三角記号)
とデジタルGND(小さ目の三角記号)をここの一か所で接続するようにしています。
クロック発振はクリスタル発振子ではなく、クリスタル発振器を使っています。
この方が確実に発振するので安定に動作します。
音量調整スイッチ、外部ROMは使いませんので無接続のままです。オーディオ出力には
直流カットのために大容量のコンデンサを経由して出力としています。
さらに発振防止用のフィルタを追加しています。
VCOMピンのコンデンサは内蔵レギュレータの出力安定化用です。



この回路の組み立てに必要なパーツは下表のようになります。


パーツが集まったら組み立てます。部品の実装は下図のようにします。
IC、コネクタの実装位置だけ最初に決めてから配線をします。
今回の製作では、音楽にデジタル回路のノイズが入るのをできる限り少なくするため、
グランドと電源をアナログ系とデジタル系に分離して製作します。
下図で上側のグランドと電源がデジタル系、下側がアナログ系になり、一番左側で
両者のグランドを接続しています。
最初に抵抗と配線をし、その後コンデンサを実装します。


この組み立てでは、USBコネクタとステレオジャックのピン配置が下図のようになりますので
ピンを間違えないように注意してください。
また電解コンデンサには向きがあります。黒い帯が印刷されている側がマイナス側になります。




【動作テスト】
組み立てが完了したらさっそく動かしてみましょう。
USBコネクタでパソコンと接続したとき、発光ダイオードが点灯すれば基本的な電源供給は
できています。これが点灯しなかったり、3端子レギュレータが熱くなったりするときは何らかの
配線ミスがあると思われますので見直してください。
次にステレオジャックにヘッドフォンなどを接続してから、パソコンのメディアプレーヤを起動し、
何らかの曲を再生すれば聴こえてくるはずです。これでテストは完了です。
ハイレゾを再生するには】
せっかく高音質で音楽が聴けますから、MP3ではなくWAV形式のファイルとして再生するのが
よいと思います。
しかしCDからWAVファイルに変換すると曲名などのデータがWAVファイルには入りませんので、
FLAC形式に変換するのがよいと思います。
しかし、メディアプレーヤではFLAC形式のファイルは再生できません。FLAC形式のファイルの
再生が可能なソフトウェアが必要です。

このFLACファイルが再生可能なソフトウェアにはいくつかありますが、フリーソフトとして入手可能
なものに次のものがあります。いずれもWAV、ALAC、FLAC、WMA Losslessのいずれにも対応して
います。

 @foobar2000
  入手先:http://www.foobar2000.org/
  日本語化ファイル入手先:http://tnetsixenon.xrea.jp/rnote/localization/foobar2000.html

 AJRiverMC
  入手先:http://www.jriver.com/

またCDをFLAC形式にリッピングするソフトウェアとしては、次のようなものがあります。
もともと有料のソフトウェアですが、21日間だけの試用版もあります。

 @dBpoweramp CD Ripper
  入手先:http://www.dbpoweramp.com/cd-ripper.htm

これでCDを最高音質の状態で再生することができるようになります。さらにハイレゾの音楽を
インターネットで購入すればハイレゾ音楽の再生も可能です。
残念ながら今回のUSB DACは44.1kHzで16ビットの性能ですから、本来のハイレゾの再生では
ありませんが、ハイレゾならではの音を体験することはできます。

【ハイレゾとは?】
最近、音楽の世界でハイレゾルーション(略してハイレゾ)という言葉が流行っています。
これは何のことでしょうか。ハイレゾ、日本語にすれば高分解能という言葉になります。
何が高分解能なのでしょうか。
もともとの音楽はアナログ信号です。これをデジタル信号に変換する場合、下図のように
一定の時間間隔でアナログの信号を入力し、これをデジタル数値に変換します。
このとき2つの要素が課題になります。ひとつは下図の横軸で表される一定間隔(これを
サンプリング周期という)の時間の細かさで、もう一つは縦軸で表されるデジタル数値に
変換するときの刻みの細かさ、つまりA/D変換のビット数です。

下図の(a)と(b)ですぐわかるように、ハイレゾの方が元のアナログ波形に近い波形となって
いることがわかります。デジタル化するということは図のように階段状の波形に変換すること
になりますから、いずれの刻みも細かい程元の波形に近い波形となることになります。
このことは音楽でいうと何に影響するかというと、高音がきれいに再生できるということと、
階段状になることによるノイズを減らせるということです。


ではどれくらいの刻みの差があるかというと下表のようになっています。
ハイレゾの方が圧倒的に細かい刻みになっていることがわかります。



 ハイレゾに関連してもう一つ課題があります。それはデジタル化して保存するときの
ファイルサイズの課題です。ハイレゾにするとサンプリング数も多くなりますし、デジタル化
したときのビット数も増えますから当然ファイルが大きくなります。
これまでもファイルサイズをできるだけ小さくするためMP3形式などに圧縮して格納していましたが、
実は圧縮するとオリジナルの状態に戻せなくなるものがあります。
ハイレゾで音楽データを作成しても圧縮した結果オリジナルの状態に戻せないのでは、
せっかくの高音質が悪化してしまいます。
そこで、ハイレゾでは圧縮してもオリジナルの状態に戻せる可逆圧縮方式で格納するように
しています。このような圧縮方式には下表のようなものがあります。