DSPラジオICを使ったAM/FMラジオ


【概要】

必要最小限の部品でFM放送をガンガン聴くことができるDSPラジオを製作します。
完成した状態が下記写真のようになります。
無調整ですのでブレッドボードに組み立てたらすぐ動かすことができます。
電池を接続してステレオジャックにヘッドフォンを接続し、ボリュームを回して
選局することでFM放送を聴くことができます。


【DSPラジオICの動作】

製作に使うのはDSP(Digital Signal Processor)というアナログ信号をデジタル演算で
扱うことができるプロセッサを使ったDSPラジオICを使います。
FMラジオを受信するために必要なすべての機能を1個のICに内蔵していますので、
アンテナを接続するだけで、ステレオのオーディオ信号として出力されます。
他の多くのDSPラジオICはマイコンを接続して選局したり、バンドを切り替えたりするのですが、
今回使ったICはマイコンを使わず、外部から電圧を加えることで選局できるようになっています。
したがって選局は単純に可変抵抗器でできます。

使用したDSPラジオICはシリコンラボラトリー社製の「Si4831」という型番で、その内部構成は
下図のようになっています。この図で動作を説明します。


まず、アンテナで受信される電波信号を低雑音アンプで増幅します。ここではすべての電波を受けて
増幅しています。増幅する際、強い電波と弱い電波がありますから、選択された電波の出力オーディオ
信号のレベルが丁度適当な大きさになるようにDSPから増幅ゲインを調整制御します
AGC:Auto Gain Controlと呼ばれる)。
これで電波がある一定以上の強さがあれば、オーディオ出力が一定の音量となります。

このあと、受信した電波を直接A/Dコンバータでデジタル信号に変換しようとするとFM信号の
100MHz近辺という高周波信号を変換しなければならなくなって難しくなりますので、周波数変換部で
内蔵発振器の周波数と混合して周波数の低い信号に変換します。

この周波数変換部で混合すると、内蔵発振器の周波数と受信信号の周波数を足し算した周波数の信号と、
引き算した周波数の信号が生成されます。ここでは、引き算した方の低くなった周波数の信号を
A/Dコンバータでデジタル信号に変換してDSPに入力します。

しかし、この周波数変換では少し困ったことが起きます。それは内蔵発振器の周波数に近いラジオ局
の場合、周波数が近い別のラジオ局があると混信を起こしてしまうということです。
これを取り除くため、内蔵発振器と90度だけ位相がずれた信号による周波数変換の信号も生成します。
これをDSPの中で乗算処理をすると混信した信号を消してしまうことができます。
(この方式を「直交ミキサ」を使った「ダイレクトコンバーション方式」と呼ぶ)

デジタル信号となってDSPに入力されたあとは、DSPのデジタルフィルタ機能により、チューニングで
指定された周波数のみを取り出し、FM検波してオーディオ信号に変換します。
さらにステレオの場合には左右チャネルの信号に振り分けます。
これらをすべてDSP内のプログラムで実行してしまいます。

内蔵発振器の周波数が安定な周波数となるように、クリスタル発振子で安定な周波数を生成するように
していますが、さらにチューニング周波数がずれた場合には、DSPから内蔵発振器の周波数を微調整
するように制御して常に最適なチューニング状態になるようにしています
(これをAFC:Auto Frequency Controlと呼ぶ)。

バンド指定とチューニングは外部から電圧で与えるようになっていて、A/Dコンバータでデジタル値に変換し、
DSP内のデジタルフィルタプログラムにより、指定された周波数のみ取り出してFM検波し、
オーディオ信号を取り出すようにしています。
しかし、ここで取り出したオーディオ信号は、まだデジタル信号のままですから、これをD/Aコンバータに
出力してアナログ信号に変換して音として出力します。

このように受信する周波数をDSP内のプログラムで決めていますから、受信する周波数範囲は自由に
決められます。したがって、このICは中波、短波、FM、TVとあらゆる範囲の放送電波を受信することが
できます。

【回路定数の決め方】

製作するDSPラジオの最小構成の回路図は、データシートの標準回路を元にすると下図のようになります。
VDDと記号が入っている部分は電源に接続します。また三角記号の部分はですべてグランド(電池の
マイナス側)に接続します。



調整箇所は無いのですが、このICは非常に広い範囲の周波数を受信できます。
このため、どの範囲の受信をするかというバンド指定を外部から電圧で与えてやる必要があります。
この電圧は抵抗で分圧して生成するようになっていて、回路図のR2とR3が対応します。
この2個の抵抗でバンドを決めたあと、その中の周波数変更はVR1の可変抵抗で行います。
つまり局選択は可変抵抗で行うことになります。

R2とR3の抵抗値と指定バンドの対応は日本のFM放送のバンド(76MHzから90MHz)と
AM放送のバンドだけ取り出すと下表のようになっています。
ここでディエンファシスというのは、FM放送の送信側で音声の高音を強調しているものを
元に戻すことをいいます。このディエンファシス処理もDSPのプログラムで実行しています。
表のディエンファシス値は時定数を示していて、日本のFM放送は50μs、アナログTV放送
では75μsとなっています。したがってFM放送で選択すべきはBand13か14ということになります。

ステレオLED検出レベルというのは、このICではステレオを検出するとLED点灯出力が
出るようになっていますが、その検出レベルが2段階になっているということで、
12dBとするとより確実にステレオを検知して表示するようになります。
回路図の値はBand14になるようにしています。180kΩと少し表の値と異なっていますが、
大丈夫です。R2+R3=500kΩとするように指定されていますので、
R2は500kΩ−180kΩ=320kΩとなりますが、抵抗の標準値の330kΩとします。


【部品と組み立て】

DSPラジオのFM放送受信の場合の組み立てに必要な部品は下表となります。
使うICは小さなパッケージですので、そのままではブレッドボードには使えません。
そこで変換基板に実装した状態で使います。
電源はこのICの動作範囲が2.0Vから3.6Vとなっていますので、単3か単4電池を2本直列接続
して供給します。
 記号 品名  値・型名  数量 入手先 
 IC1  DSPラジオIC  Si4831-B30  1 アイテンドー   
 IC1用  変換基板  QSOP(0.635)24ピン用  1
 VR1  可変抵抗  小型 RA091N-H  1
 X1  クリスタル振動子  32.768kHz 3φ円筒型  1 アイテンドー
または
秋月電子通商              
R1   抵抗  10kΩ 1/4W  1
 R2   〃  330kΩ 誤差1% 1/4W  1
 R3   〃  180kΩ 誤差1% 1/4W  1
 R4  〃  100kΩ 1/4W  1
 C1,C2  積層セラミックコン  0.1μF〜0.47uF 50V  2
 C3,C4,C7   〃  0.1uF 50V  3
 C5,C6  セラミックコンデンサ  22pF  2
 J1  ステレオジャック  ミニジャックDIP化キット  1
 その他      ブレッドボード  EIC-801  1
 ジャンパワイヤ  EIC-J-L  1
 ビニール線または単線  0.5φ 50cm程度  1
 バッテリ  単3または単4×2本  1
 電池ボックス  単3または単4×2本ビニール線付き  1
   ヘッドフォンまたはスピーカ   任意  


回路図を元にブレッドボードに組み立てたところが下記写真となります。





組み立ての手順は次のようにします。
(1) 大型部品を実装する場所を決める
 IC、可変抵抗、ステレオジャックを実装する位置を決めます。

(2) ICの1ピン側から順番に配線と部品を実装していきます。
 大型部品は実装しない状態で配線を進めます。電源とグランドはブレッドボードの両端の2列が
 列ごとに内部でつながっていますので、両端の列間を接続することで両方が同じ電源とグランド
 の供給ラインとなります。
 ステレオジャックは変換基板に組み立て済みのものを使いました。この変換基板に4ピンの接続
 ピンが出ていて、それぞれにL、R、Gと記号が印刷されていますので間違えないように接続します。
 VR1の配線は3ピンの中央のピンをICの4ピンに接続し、両端はどちら側をグランドに接続しても
 問題はなく、右回りと左回りで周波数のアップダウンが逆になるだけです。



(3) 大型部品の実装
 可変抵抗はピンを伸ばして横向きに実装できるようにします。ステレオジャックにはGが2つありますが
 いずれか片方を接続すれば大丈夫です。ICの実装は向きを間違えないように注意してください。

(4) アンテナ線を接続
 50cm程度の単線かビニール線をアンテナとして接続します。

(5) 電池を接続する
 単3か単4の2本の電池ホルダで接続します。プラスとマイナスを間違えないように接続します。
 マイナス側がグランドになります。隣接するグランドや電源配線を被覆なしの単線で接続しています
 ので忘れないようにしてください。

組み立てが完了したら、ステレオジャックにヘッドフォンか、アクティブスピーカ、またはステレオアンプ
などを接続します。
これで電池をホルダに挿入して可変抵抗を回せばどこかでFM放送が聴こえてくるはずです。
電波が弱い地域では、窓際に近いところに置くか、アンテナ線を長くすれば感度が上がります。
【チューニング用発光ダイオードを追加する】
このICにはもともとチューニング用とステレオ状態の表示出力が出ていますので、ここにLEDを
追加することができます。
チューニング用LED1(赤色LEDを使う)は、可変抵抗を回してFM局が受信できると光るようになっています。
さらに受信したFM局がステレオ状態の時にはステレオインジケータLED2(緑色LEDを使う)が光ります。
追加回路図とブレッドボードの配線は下図のようにします。
この配線では、LEDの極性を間違えないようにする必要があります。足の長い方がVDD側となります。
R11はIC1の下側を通すようにしました。



【AMバンドを追加する】
FM放送の他にAM放送も受信できるようにする追加です。
このためには、AM放送受信用のコイルを追加する必要があります。このコイルはインピーダンス
というコイルの定数が180μH〜450μHのものであればどのようなものでもよいのですが、
フェライトバーにコイルを巻きつけたバーアンテナがアンテナの役割も同時に行うので高感度に
なりますから便利です。
AM用のコイルL1は、どちら側でも良いですが片方はグランドへ、もう一方はコンデンサC8を直列に
挿入して12ピンに接続します。
バーアンテナコイルの場合巻線が細いですので、これをブレッドボードに挿入するには無理があります
ので、ピンヘッダにはんだ付けするかピンヘッダにコイルのはんだメッキされた部分を巻きつけると
うまく接続できます。

この改造には、バンドをAMとFMに切り替えることも必要になります。上表からFMの場合は180kΩ、
AMの場合は280kΩ程度の抵抗値にすることが必要になりますから、
下図のようにこれまでのR2の330kΩの抵抗をR22の100kΩとR21の220kΩに分けてAMとFMのバンドを
ジャンパJP1で切り替えできるようにします。
こうすれば全体を500kΩとしたままAMとFMを切り替えることができます。
つまりジャンパJP1で1と2を接続すればFMになり、2と3を接続すればAMとなります。


【音量アップダウンスイッチの追加】
このICにはもともと音量を調整することができるピンが用意されています。
これが16ピンと17ピンになります。最初の組み立てでは両方のピンをグランドに接続していましたが、
この配線を取り外してスイッチを接続します。
プルアップ抵抗と呼ばれる抵抗も一緒に追加する必要があります。この抵抗により、スイッチがオフの時は
電源電圧がピンに入力され、スイッチがオンの間は0Vが入力されることになります。

このスイッチの追加は、下図のようにします。
スイッチにはスライドスイッチと呼ばれる小型のスイッチを使いますが、このスイッチには足が3本あります。
スライドした方の2ピンが接続状態になります。これでいずれかのスイッチがグランドに接続されれば音量が
アップまたはダウンします。
ゆっくりとアップダウンしますので、適当なところでスイッチのスライドを元に戻してオフ状態に戻せば
その音量で停止します。


最終回路と追加部品】
すべての追加回路を含めた回路図が下図となります。


追加に必要な部品が下表となります。


 記号
品名  値・型名  数量 入手先 
LED1、LED2 発光ダイオード 3φ 赤、緑 各 1   秋月電子通商
R11、R12 抵抗 220Ω 1/4W  2
C21 積層セラミックコン 0.47μF 50V  1
L1 AMバンド用コイル 300μH (36030-300U-2T)  1 アイテンドー
R21 抵抗 220kΩ 1% 1/4W  1 秋月電子通商
R22 抵抗 100kΩ 1% 1/4W  1
SW1,SW2 スライドスイッチ SS12D01G4  2
R31,R32 抵抗 10kΩ 1/4W  2

以上でDSPラジオの製作は完了です。
我が家でもこのDSPラジオをパソコン用のアクティブスピーカに接続してしばらく使っていますが、
雑音も少なく聴きやすいです。
局選択もスムーズにできますし、部屋の中でも十分の感度ですのでまったく問題なく使えています。